卓話 2022年4月28日
Do you know Noh?
能楽観世流シテ方 山本章弘と申します。実は私、能の役者として 3 代目です。山本家の歴史、実は両替商をやっていたのです。大きな大きな鈴鹿山という山車(だし)を出すくらいお金持ちだったのですけれども、保証人で、だまされまして、うまくいっていたら、私はここではしゃべっていません。
芸は身を助けるということで、私の曾祖父がちょっと謡を教えていたのをうちの祖父が、東京から家元が教えに来られた所に習いに行って、父たちの代で私というように続いて、息子も今、この道をやっています。能は動きが非常に緩やかで見ていて退屈する、鑑賞すると眠くなるなどの悪の三要素のようですが、このへんを今日はいろいろお話ししていきたいと思います。
能楽とは、能と狂言、これの総称です。最近は狂言師などと言いますけれども、それは間違いで、能楽師・狂言方というのが正解です。能と狂言をよく一緒にされるのですが、室町時代から始まった兄弟だと思ってください。「ちょっと真面目な歌の好きなお兄ちゃん」が能です。弟は大阪弁でいう「いちびりな弟」というイメージで捉えていただきたいのですが、能は歌で聞く歌劇なのです。一方、狂言は言葉劇、せりふ劇です。
狂言は格差社会におけるいじめをおもしろおかしく描いた滑稽劇ですから、今の落語とか漫才、新喜劇などのルーツだと言っていいのですが、パワハラで始まり、パワハラで終わるというように、大名と家来、主人と使用人という関係の中で、上の立場の大名や主人がちょっとおつむが弱くて、使用人とか家来がちょっとインテリで。
いつもパワハラでやられているのが、ちょっと懲らしめてやろうというようなタッチで、最後は、「やるまいぞ、やるまいぞ(むこうへやらないぞ/逃がさないぞ)」、「ごゆるされませ(許してください)」というパワハラで終わると、それを笑うというものです。能のほうは歌劇です。室町時代のホラーと思っていただければいいと思います。大概の作品は、室町以前に書かれた登場人物が「死んだあと」という設定で劇化されていますので、お坊さんが多いのですけれども、亡霊が人に変身して何かのテーマを伝えていくという設定になっています。
〈能楽の歴史〉
・平安時代( 9 世紀)から鎌倉時代(13世紀)にかけて中国から「散楽」という諸芸能が渡来する。
・室町中期(14世紀)に「散楽」の諸芸能が「猿楽」という芸能に統合し、武家社会に流行る。
・戦国時代に豊臣秀吉が自分で演じるようになり、装束や面が豪華になる。
・明治時代(19世紀)に武家社会が崩壊するが、商人が能の庇護者になる。能楽堂が初めて出来る(芝能楽堂)
・現在はUNESCOの世界無形文化遺産である。